物語の森
突然変異的に発生した新種のナス。
それが、あまりにも美味であると国内で爆発的人気を得ていた。
元はイタリア原産のティグリナというナスで、白い模様等の特徴はそのままだが、国内でのみ栽培することができるソレ。
どこかの企業が出した広告のキャッチコピーから、いつしか「なすちゃん」の愛称で呼ばれるようになっていた。
好奇心からその種を購入したのは、一月ほど前のことだった。
この種は鮮度が味を大きく左右することと、小さな鉢植えで放置するだけで簡単に育つことから自家栽培が盛んに行われていた。
仕事漬けの毎日に、種を植えたことすら忘れていた頃。
ソレは、突然産声を上げた。
「なーす!」
「……は?」
書類に半ば埋もれていた鉢植え。
さすがに水やりすらしなかった為に枯れかけていたが、そこに一つだけ実がなっていた。
そして、その実が鳴いていた。
* * *
ネットで調べても、これは新種とはいえ普通のナスで、少なくとも手足があったり鳴いたりはしない。
ソレは、枯れかけていたツルから飛び降り、私の前に向き直った。
「なーす!」
「えぇ……」
両手を広げて満面の笑みを浮かべるなす。
一体、私にどうしろというのか………。
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